top of page
Recent Posts

「サイボーグの記憶」への誘惑


11/26(日)

高橋さきの(翻訳家)× 三村尚央(英文学)トークセッション

「サイボーグの記憶」

逆巻しとね

ディープ・ラーニング、ビッグ・データ、デジタル人文学、アルファ碁、グーグル翻訳、シンギュラリティ(技術的特異点)……。

 第三次AIブームに湧く2017年、人間の頭脳労働がいずれAIに置き換わるのでは、という未来予測がまことしやかに囁かれています。経済原理を突き詰めていくと、人間は機械と交換可能な、労働力供給の資源(人材)に過ぎないことになります。2000年代以降加速度的に進展する労働の自由化・流動化、民営化、裁量労働制、働き方改革、そして昨今しきりに喧伝されている「生産性革命・人づくり革命」は、人に任されていたタスクを機械に代替させたり、労働者を労働量に応じて自由に使いまわしたり、より弱い立場にある人たちに低賃金の労働を押しつけたりする状況を泥沼化させています。しかしこれは今になって突如降りかかってきた災厄ではありません。現在進行形の労働改革は、1980年代に具体化した労働の流動化の延長線上にあるということを忘れてはならないでしょう。

 技術の進歩を労働の搾取に利用する状況を批判する上で、ダナ・ハラウェイが80年代に提唱した「サイボーグ」という概念は今でも有効です。これは機械の人間に対する支配や収奪の恐怖を煽ったり、はたまた技術の進歩によって人間の生活が無限に向上する可能性を言祝いだりするものではありません。労働量やサイバネティックスの観点から、機械と人間が互換可能になる両者の融合状況をいったん所与のものとして受け入れたうえで、どの部分までが自分(self)でどこからそうではなくなる(another)のか、差異の所在を見極め、しかし人間性(human nature)/機械という旧式のスラッシュは打ち捨て、新しいインターフェイス構築に向かうプラットフォームとして考案されたのがサイボーグという概念でした。

 サイボーグはさまざまな角度から議論することが可能ですが、とりわけサイボーグの政治の切り結びを検討するうえで格好の素材となるのが記憶です。というのも記憶の歴史は、記憶を補助する記録や記憶の方法を物質的に、あるいは技術的に深化させていく過程でもあったからです。文字、紙、活版印刷、そして記憶術は、脳による記憶を補助するものであると同時にそれなしでは記憶を保持しておくことができない、人間の生と切り離すことのできない技術となっていきます。この記憶の技術化が科学技術の進歩を通じて一層進行した現在のわたしたちには、「自然な記憶」なるものを想像することはもうできません。コンピュータのメモリーやプロセッサーが扱うデータや情報の量は、とっくに人知を超えています。こうした機械の記憶がなければ、荒れ狂う情報の洪水を御すことはできないのです。

 ではデータや情報をたくさん保存してくれる機械にすべてを委ねておいてよいのでしょうか。原爆資料館はAIがつくってくれるのでしょうか。会議の資料はすべてpdfファイルで保存しておけばそれで済むのでしょうか。いずれスマホがわたしたちの脳に直接データを送りこんでくれる時代が到来すれば、それは人間の記憶が必要とされなくなる瞬間なのでしょうか。果たして、純粋に自然な記憶がどこにもないという状況は人間性の危機なのでしょうか。機械人間となる未来を忌避して、機械から離れ、脳トレに励むことが記憶力の向上につながるのでしょうか。いつでも取り出せる状態にあるデータや情報が記憶と呼ばれるものなのでしょうか。とりわけ、機械=科学技術と人間性のあいだに明確な線を引くことができないのであれば、わたしたちはどこに差異を見出してインターフェイスを想定すればよいのでしょうか。記憶についてしっかり考えてみれば、機械と人間が一緒に生きていくためのヒントをたくさん得ることができると思いますし、日常的に使っている記憶という概念に大きな揺さぶりが加わることでしょう。

 今年2017年に、科学技術論を専門とする高橋さきのさんが17年前に翻訳したダナ・ハラウェイ『猿と女とサイボーグ』(青土社)の新装版と、イギリス文学・記憶の文化論を専門とする三村尚央さんが翻訳したアン・ホワイトヘッド『記憶をめぐる人文学』(彩流社)が刊行されました。今回偶然にも、おふたりに福岡にお越しいただき、トークセッションを行う機会を設けることができました。異分野の専門家どうし、それも学術翻訳の訳者どうしがこうしてセッションを行うことは非常に稀ですし、翻訳の苦労話も含めて、カタい話をやわらかく語っていただきましょう。福岡におふたりが同時にいらっしゃる機会は二度とないかもしれません。どうぞお見逃しなきよう。

 

日時: 11月26日(日)17:00 スタート(16:30開場)


会場: カフェ&ギャラリー・キューブリック ブックスキューブリック箱崎店2F

     (福岡市東区箱崎1-5-14 JR箱崎駅西口から博多駅方面に徒歩1分)


参加費:  一般1,500円 学生500円

(ドリンク付き・要予約・学生は当日身分証を呈示)


出演: 高橋さきの ✘ 三村尚央


聞き手: 逆巻しとね(文芸共和国の会・世話人)

#予約方法#


vortexsitone@gmail.com(逆巻)まで、


件名を「11/26箱崎トーク予約」として、


【1.お名前、2.参加人数、3.ご連絡先電話番号、4. 学生/一般の別】


をご記入の上お申込みください。


逆巻からの予約確認メールをもってお申し込み完了といたします。


参加費は当日ブックスキューブリックさんの受付でお支払いくださいますようお願いいたします。

bottom of page